
魚は好き。刺身も焼き魚も好き。でも、丸ごと一匹を買ったことはない。一度さばこうとしたら身がボロボロになって、背骨に身が全部残った。そんな人、けっこう多いんじゃないかと思う。
筆者も、釣りにハマるまでは刺身と煮付けしかやっていなかった。調べだしたらこんな食べ方があるのかと分かってきて、今はすっかりドハマりしているけれど、最初の一匹は本当にひどかった。
そんなとき、「魚をさばくことをガッツリやっている大学サークルが長崎にある」と聞いた。長崎大学 魚料理研究会。2026年9月26日(土)、長崎へ向かった。
一日追って分かったのは、魚がさばけない理由は、案外はっきりしている、ということ。その話を含めて、活動日の一日を順番に書いていきます。

会場のチトセピアホール入口

調理実習室の看板
長崎大学 魚料理研究会って、そもそも何をしているサークル?
長崎大学 魚料理研究会は、長崎大学公式の全学サークル。通称「魚料研(ぎょりょうけん)」。「長崎の魚を知る・食べる・広める」をコンセプトに、メンバーで集まって魚料理を作るほか、親子料理教室の開催、イベントへの出店、レシピ開発もしている。長崎市の取り組み「さしみシティ」の公認団体でもあり、市のイベントに呼ばれることもあります。
会場は長崎市の北公民館にある調理実習室。到着すると、おそろいの水色のTシャツを着た学生がもう動き回っていた。袖には「#さしみシティ 長崎は日本一さしみが おいしいまち」の文字。

Tシャツの袖「#さしみシティ」
この日は2部制で、筆者が参加したのは1部。それでも20人以上が集まっていた。もちろん水産学部の人が多いのだけど、工学部、情報系、薬学部、環境科学の人もいて、出身も北海道から沖縄まで全国から来ている。
7代目の会長を務める松井さん(3年)に、この日の位置づけを聞くとこう返ってきた。
「公民館でみんなで集まって魚をさばいて食べる回。そのタイミングで次に出店があれば仕込みも一緒にやるし、出す料理の試作もする」
松井さんはスーパーの鮮魚コーナーでアルバイトをしていて、お客さんに頼まれた魚をさばくサービスで腕を磨いているそうです。
午後、発泡スチロールの箱が開く。漁師さんの魚と、「スーパーにないやつ」
午後、発泡スチロールの箱が調理台に運ばれてきた。中身は大きく2種類ある。
ひとつは、漁師さんから仕入れた魚。サバと、細長くて青い、口の長いアオヤガラ。「売り物にならないような小さい魚」も混ざっている。
もうひとつは、珍しい魚が並ぶ鮮魚店で買ってきた魚。この日はキハダマグロや、縞模様のイシガキダイなど。

発泡スチロールの箱の魚

手前がキハダマグロ
部員には事前アンケートで「さばきたい魚」「やってみたいこと」を聞いているそうで、「マグロ」や「珍しい魚」「スーパーにないような魚」と書く人がいたという。松井さんいわく「みんなここでしか珍しい魚に触る機会がない」。だから「みんながあまりさばいたことのない魚」を買ってくる。
氷の中からアオヤガラが出てきて、部員が掲げて見せると、「食べたことない」という声が上がった。

氷の中のアオヤガラ

アオヤガラを掲げて見せる
ちなみにこの日、今朝まで乗船実習に出ていた部員も参加していた。「5時から起きて船から帰ってきたばかり」だそうで、その足で公民館に来る熱量がすごい。
まずは全員でサバをおろす。1年生も上級生も、ここから始まる
最初の作業は、漁師さんから仕入れたサバの3枚おろし。調理台にまな板が並び、全員が一斉にサバに向かう。

サバをおろす

全員でサバをおろす

サバの3枚おろし
サバは魚料理の入口にちょうどいい魚だと思う。手に入りやすくて、体の形が素直で、骨の位置も分かりやすい。研究会でも、まずはこれで全員が手を動かす。会話は少なめで、しばらくは包丁の音だけが続く時間。
上級生が横から手元をのぞき込む場面もあった。教える側と教わる側の距離が近い。
バットに、おろしたサバの身がきれいに並んでいく光景は、なかなか壮観でした。

バットに並んだサバの身
サバをおろしている横では、ザルに山盛りのイワシが待っていた。その数304匹。「数えた」そうです。このイワシと、おろしたサバの大部分は、10月3日のイベントで出す「サバとイワシの甘酢あんかけ」用。この日は下ごしらえまでで、冷凍して当日に備える。松井さんが言っていた「出店の仕込みも一緒にやる」がこれです。

ザル一杯のイワシ
初めてのカマスは、なぜボロボロになるのか
サバが一段落すると、カマス、キハダマグロ、イシガキダイ、アオヤガラへ。それぞれ担当が分かれて、3枚おろし、皮引き、柵取りへ進んでいく。
「柔らかすぎる魚も難しい」カマス担当の2年生の場合
カマスを担当していた2年生に、難しいところを聞いてみた。
「初めての魚をさばくときは本当に未知数で、骨の位置も分からないし、細長くてどこまであばらがあるのかよく分からない」
細長い魚は難しい。そして「柔らかすぎる魚も難しい」。この日のカマスは「やたら柔らかい」個体だったそうで、別のメンバーも「個人的な感覚だけど、前のはもう少し身がしっかりしていた。時期や脂の乗りで変わるのかも」と話していた。同じ魚でも、日によって手応えが変わる。これは筆者も釣った魚で感じていたことで、少し安心した。

カマスをさばく

カマスの口の構造を観察する

カマスの口の構造を観察する
さばく手を止めて、カマスの口の構造を観察する。どんな歯がどう並んでいるのか、その場で確かめる。こういう寄り道ができるのも、研究会ならでは。
松井さんが言う、初心者がつまずくところは2つ
冒頭で書いた「さばけない理由」。松井さんの言葉をそのまま載せます。
「まだ魚をさばくのが初めてという人が多い。僕らは自分の包丁を持っているけど、切れ味の悪い包丁だと身がボロボロになることもある。それと、魚の構造が頭に入っていないと、どこが骨か分からなくてボロボロになる、というのが結構ある」
つまり、包丁の切れ味と、魚の構造を知らないこと。この2つ。手先の器用さの話は一度も出てこなかった。
構造については、この日のキハダマグロが分かりやすかった。「小骨が少なくて分かりやすい」という声もあって、赤身の柵が次々に出てくる。

キハダマグロをさばく

キハダマグロの皮引きがうまくいった一枚

アオヤガラの皮を引く
実家暮らしの1年生は、「最初は全く(さばけない)状態から入った。最初は背骨に身が全部残ってしまった」と話してくれた。まさに冒頭のあるあるそのもの。でもこの日は、普通にサバをおろしていた。
松井さんの言葉で印象に残ったのがこれ。
「1年に7〜8回やっていれば、いつの間にか人に教える側になっている。1年生が2年生になって新入生が入ると、自然と教える側になる。それを見てみんな成長したなと思う」
年7〜8回。月1回もない。それでも教える側になれる。
「仕込みが早く終わったから、もう一回買い出し」。ここから料理が始まる
柵取りが一段落したところで、松井さんが声をかけた。
「仕込みが思ったより早く終わった。魚以外の食材も入れて料理を作っていいから、もう一回買い出しに行く。少し高めの魚を買ってもいい。何を作るか考えてみてほしい」
ここから先は自由。何を作るかは各自で考える。この自由度の高さが、このサークルの面白いところだと思う。

キハダマグロの刺身を切り分ける

切り付けを教える松井さん

キハダマグロの柵取りができたところ
刺身に切り付ける手元で、松井さんが教えていたのは包丁の入れ方。「包丁をちょこちょこ入れずに、一気に引いて、最後に立てる。立てるのは見栄えの問題」。刺身の切り口が変わる、家でもそのまま使えるコツだと思う。
調理台のあちこちで、いろんな料理が同時に進んでいく。白身の薄造りは絵皿に扇状に盛られ、エビとさつまいもの天ぷらが揚がる。カマスはムニエルにしてじゃがいもを添える。焼いたサーモンも出てくる。

薄造りを盛り付ける

天ぷらを揚げる
ムニエルの前では、上級生が後輩に「どっちから焼き始めるか」を教えていた。「皮を下にして焼く。皮がカリッとして見た目もおいしそうになる」。松井さんだけが教えるのではなく、あちこちで誰かが誰かに教えている。

ムニエルはどちらの面から焼き始めるか

カマスのムニエル
「カマスは塩焼きのイメージしかなかったけど、刺身や炙りもおいしい」という声もあった。さばけると、一つの魚の食べ方が一気に広がる。
ちなみに研究会はレシピ開発もしていて、UMASOにも掲載されています。グラスに酢飯と刺身を重ねたおすしパフェ、白身魚の大葉チーズ揚げ餃子、松井さんが考案した白身魚のトマトピザ。この自由さの延長にあるレシピだと思う。
飯台の前に人だかり。会長の握り寿司教室がはじまった
飯台にシャリが用意されると、松井さんの前に人だかりができた。

飯台の前で握って見せる松井さんと、囲む部員たち

握り方を教わる部員たち
「左手でこう持って、指と手のひらの境目あたりにシャリを乗せる」
「そこからは色々なやり方があるけど、俺は……」
「手は濡らした方がいい」
握って見せると、すぐに「俺も一回やっていいですか」「やってやって」となって、部員が順番に試していく。

シャリの握り方を伝授中
松井さんは家族や友達に寿司を振る舞うこともあるそうで、「(プロと)比べるようなレベルではないけど、自分で食べる分には、数をこなしていたらおいしくできるようになった」と話していた。鮮魚コーナーのバイトで魚をさばき、家では握る。数をこなす人の手つきは、やっぱり違う。

握った寿司を並べる
そして食べる。「魚をきれいに食べられるって、普通にかっこいい」

研究会提供。テーブルに並んだ料理を囲んで
薄造り、天ぷら、ムニエル、握り寿司がテーブルに並び、ようやく食べる時間。
2年生の部員が言っていたことが、この日いちばん残った言葉かもしれない。
「魚をきれいにさばいていると、骨の位置が分かってきて、きれいに食べられるようになる」
「魚をきれいに食べられるって、普通にかっこいい。きれいに食べられないと申し訳ない気持ちになる」
魚が違っても、骨の通り方には「ある程度、共通しているところがある」という。さばくことと食べることが、骨の位置という一点でつながっている。さばける人は、食べ方もきれいになる。
一人暮らしで魚は無理? 部員の本音と、会長の「まずは切り身から」
さばけるようになった部員たちも、家で魚をやっているかというと、そうでもないらしい。
一人暮らしの1年生(情報系)は正直だった。
「一人暮らしだと魚はハードルが高い。ゴミの問題。一人暮らしのシンクは狭いのでやりづらい。冷凍庫もパンパン。やってみたい気持ちは全然ある」
「魚は意外と高い。だったら肉にしちゃおうかな、となる」
工学部の2年生も、「母もさばけないと言っていて、スーパーのさばくサービスくらいしか機会がなかったので、自分でさばけるってすごいと思った」と、家庭ではなかなか機会がなかったことを話してくれた。
この本音に対する松井さんの答えが、すごく現実的でよかった。
「さばくという工程をしなければ、魚料理はだいぶ簡単だと思う。まずはスーパーで切り身を買ってみて、少しずつ魚料理を食べてほしい」
「スーパーでその場でさばいてくれるところもあるので、そこから始めればゴミの問題もなくなるし、あとは焼くだけ」

7代目会長の松井さん
魚をさばくサークルの会長が「まずは切り身から」と言う。これは信頼できる気がする。筆者も、釣らなくても、スーパーの魚でも味の振り幅が広がるのを実感している。焼いただけの切り身から、じんわり出てくるうまみ。魚種や季節で変わる脂の乗り方。魚には魚にしかない、深いおいしさがある。入口は切り身でいい。
まとめ
一日追って分かったことを整理します。
まずは今夜、スーパーで切り身を一枚買ってくるところから始めてみませんか。
長崎大学 魚料理研究会は、10月3日のイベントに出店予定です。この日仕込んでいたイワシとサバがどうなったかは、続編のイベントレポートで。新入生向けの体験会は毎年4〜5月。松井さんいわく「魚料理が好きであれば、食べに来るつもりだけでも全然来てほしい」とのこと。インスタを見て他の学部から入る人もいるそうです。



